ひま太郎物語

山と食と文化を巡って旅をします

田歌舎さんにて狩猟解体体験やってみた~狩猟編1~ 〈京都・美山〉

解体を終えて、いざ狩猟へー

 薪ストーブの暖気が木造の部屋を巡ってじんわり私の身体をほぐしていく。鹿肉のコロッケをおかわりまでいただいて、お腹も満たされた頃。

「そろそろ行きますので、ご準備ください。」

 レストランを出ると、猟師さんの軽トラが集まってきていた。猟犬が2匹ゲージに入った状態で荷台に乗せられている。2匹と目が合う。あ、今から狩りに行くってことをこの子たちはわかっているんだな、と思った。これから目の当たりにするであろう、命と命のぶつかり合い、その興奮と緊張が猟犬のまなざしと吐息に混ざって、しっとり澄んだ雨上がりの空気にビリッと電気を走らせる。

 私は狩猟なんて見るのは今回が初めてで、狩猟に関する知識もなにもない。私は今まで、毎日誰かに殺してもらって、肉にしてもらって、まるで肉が肉としてこの世に落ちてきたかのように、部位ごとにトレーに入って全国一様にスーパーに陳列されているのが当たり前のシステムの中で生きてきた。ここの生活と私の日々の生活との、“食べること”の温度差をこの時私は肌で感じて、閉口した。1回きりの見学者にそこまで真剣になることは求められていないのかもしれない。しかしちゃんと向き合わなければいけない気がした。

 私たちはバンに乗って出発し、打ち合わせのために山の地形が見えるところで一旦降りた。巻き狩り、というのをするらしい。猟師さんは5人で、これから誰がどの位置につき、どういう見立てでいくかを話し合う。そのうち1人は少し小柄な若い女性だった。皆オレンジ色のジャケットを着用し、銃を肩から引っ提げている。私たち見学者はそのうちの誰かひとりにそれぞれついて行くことになっていて、猟師さん同士の話の内容はよくわからなかったが、私は山が好きだから一番高く上る「待ち」の人に同行させてもらうことにした。その日は寒かったので、他の友人たちも動ける方がいいとのことで4人一緒に同行することになった。

 後になって知ったことだが、巻き狩りには「勢子(せこ)」と「待ち」という役割に分かれるそうだ。「勢子」が獲物を追い立て、「待ち」が獲物の通る道を予測して待機し、逃げてきたところを仕留める。今回追い立てる役目は猟犬だ。猟師さん曰く、猟犬は獲物の群れがあっても1度に何頭も追い立てるという事はせず、選んだ1頭だけを追いかけるのだそうだ。そして、猟銃を使うにあたっては、誤って事故になったりしないように厳密なルールがそれはもうたくさんあるらしく、「確認しすぎるくらいやらないと」と3発までと決められている銃弾を慎重に扱っていた。

 そんなこんなで「待ち」の猟師さんと私たちは、目的の山のふもとに到着した。「今から上まで登るけど、あまり大きな音を立てないように」と猟師さん。「ここにいても山の上の方の音って聞こえないけど、山の上からだと下の音って意外と聞こえてくるんです。鹿も当然、音がする方向には逃げて来ませんから…」

 

 さあ、ついに山に入る。気を引き締めていこう。